老人「ん、なんじゃ?」
孫「この人すごいよ!口からケムリ吐いてる。」
老人「ケムリ?どれどれ・・あ〜あ(笑)これは煙草じゃ。」
孫「タバコォ?なにそれ」
老人「昔は煙草という植物の葉っぱを干して、細かく刻んでな、それを薄い紙でくるっと巻いたものを口にくわえ、先に火をつけて、煙を吸う人がいたんじゃ。」
孫「え〜、それじゃお口の中が火事でしょ!ゴホゴホッてならないの?」
老人「そりゃなるよ、最初はね。じゃが何度も練習するうちに吸えるようになるんじゃ。」
孫「ケムリを吸って吐くだけだよね。何がおもしろいんだろ?」
老人「面白いという訳じゃない。煙の香りを楽しむんじゃ。まあ、たしなむというか・・」
孫「へえ〜。鼻でかぐんじゃなくて、吸い込んで香りをたしなむんだ。」
老人「もちろん香りだけじゃない。ニコチンという成分が効いて、気分を落ち着かせてくれるんじゃ。まあリラックスの素じゃな。」
孫「でも今はこんなことする人いないよね。どうしてやめちゃったんだろ?」
老人「それはな・・一言で言えば(遠くを見ながら)時の流れじゃろうなあ。」
孫「ふ〜ん、時の流れかあ・・・」
老人「そうじゃ。煙草と人間の歴史はとても古い。古代マヤ文明の美術品の中にも煙草の絵があるというから、もう3500年もの間、人間は煙草を吸っておった。」
孫「3500年!ひえ〜っ、想像もできないね。」
老人「そうじゃろう。」
孫「そんなに長い歴史があるのに、人間とタバコとの間に何がおきたの?」
老人「医学などの学問が発達をして煙草を吸うことが人間の体には良くないということがわかったんじゃ。」
孫「そうか、煙草を吸う人は病気になるから吸っちゃだめってことになったんだ。」
老人「その通り。しかし、それだけじゃあない。周囲の煙草を吸わない人達にも、害を与えてるとされ、たちまちのうちに煙草反対の声が広まって行ったんじゃ。そりゃあ、すさまじかった。」
孫「そうかあ・・なんだか可愛そうだね。」
老人「そうなんじゃ。しかし、病気になるより健康が一番。きれいな空気はみんなのものだという考え方が少しずつ広まっていったんじゃ。」
孫「ふ〜ん、そうなんだ。」
老人「そして、いまから10年前の5月31日。これは世界禁煙デーといわれる日じゃが、この日をもって我が国の最後の愛煙家が最後の一本を吸い、それ以降誰も煙草を吸う者はおらんようになったんじゃ。」
孫「へえ。僕が生まれるよりずっと前のことだね。」
老人「そうじゃ。この時の様子は全国にライブ中継された。わしゃ、今でもはっきりと覚えておる。最後の1本を吸い終って彼がカメラに向かって言った言葉が話題になってのう。」
孫「なんて言ったの?」
老人「今日も元気だ、タバコがうまい!・・と言ったんじゃ。」
孫「え、なにそれ!どういう意味?」
老人「(笑)分かる人には分かる最高のジョークじゃ。」
孫「ジョークかあ。でも今まできれいな空気をあたりまえだと思ってきたけど、いろんな出来事があったんだね。やめた人に感謝しないといけないね。」
老人「お〜、そうじゃ、そのとおりじゃ。いいことを言うのう。」
孫「ところで、おじいちゃんは煙草吸ってたの?」
老人「う〜ん、まあ白状すると若い頃は吸っておったなあ。じゃがお前のパパが生まれた時にキッパリとやめたよ。」
孫「だから、こうして僕と元気にお話できる」
老人「そのとおりだ(笑)いやあ、また一本とられたなあ(笑)」
孫「おじいちゃん、いつまでも元気でね。」
老人「おお、おお、ありがとう!」
完
*なお、この話は50年後を想定したフィクションで、老人も孫も特定の人物を指すものではありません。